消防車でお引越し

今日は朝から気楽なお誘いがあったのだけど、まあもう眠いからすっ飛ばそうと思って寝ていたら友達がやっぱりうちに来ていたのでドアを開けた。

 

『車に乗って街中を周るよ、クッキーとバナナも用意したから行こうよ。後部座席に座れるよ。』と友達はまだ寝てる私に囁く。

 

『君が運転するの?』と聞くと『他の友達がするから、僕は後ろに乗るよ。』という。

 

私は後部座席に座るのが好きだし、友達と座れるのは面白そうだと思って行くことに決めた。5分で支度して外に出ると、家の前に四角くて大きな赤い車が待っていた。

 

中に入ると既に4人もひとが乗っていて(思ったより多いな...)と思った。この車は元消防車で今は友達の同居人が改造してキャンピングカーみたいにして使っているそうだ。

消防車をくり抜いた形になっているので、ほぼ中は空洞、というか後部座席は存在しなかった。空間の真ん中に板が張ってあって、そこに座る仕組み。
作りは大きいけど中はほぼガランドウなので、走りもガタガタとして不安定だった。あんまりスピードは出してほしくないなあと思った。

 

私は眠くて他人とコミュニケーションする余力もなく、軽く乗客に挨拶をした後はリンゴをかじってその場をしのいでいた。すると運転手が

Katze und Hundって日本語でなんていうの?』と聞いてきたので

『Neko to Inuだよ。』と答えるとその場にいたみんなが一斉に『Neko to Inu!』と言い出した。私は微笑みながら窓の外を見ていた。猫と犬。

 

今日は車で街中を回ると言って連れ出されたけれど。よくよく友達に聞いてみたら、彼の友達が買った冷蔵庫と洗濯機のお引越しをみんなでお手伝いするとのことだった。私は必要だったのか...?と思ったが、クッキーを齧りながら車に揺られていたらまあどうでも良くなった。

 

二つの家を回って冷蔵庫と洗濯機を回収した後、友達の友達の新居の4階までみんなで運び上げた(もちろんAufzugがないからこういうことをやっている)。しかし途中で1人が腰をやってしまい、近くで冷やかし程度に手伝っていた私も本格参戦することになった。こんな私が参加してもみんな心細いだろう...と思いながら洗濯機を押し上げた。自分が一体どれくらい役に立ったのかわからないまま作業は終わった。

 

 

友達の友達は『ありがとう!ではまたね!』と言って消防車に乗って去っていた。

何かお礼を期待していなかったかと言われると嘘になる。

 

友達と私はその後スーパーに行き、自分達へのご褒美にアイスを買った。

『ビーガンのアイスにしよう!そしたら食べても眠くならないから!』というので慎重に選んでトリプルビーガンチョコアイスにした。ビーガンバニラアイスを買って失敗した過去が2人にはある。

 

しかしアイスを食べた私たちは結局眠りこけてしまった。きっと疲れていたんだと思う。

私はそこで夢を見た。

 

夢の中、私は多分市役所みたいなとこにいて、おそらくパイプ椅子とかに座っていたと思う。

そこにアトリエが火事で焼けてしまったアーティストが訪ねてきた。メガネをかけていて髪は長かった。

 

彼は焼けたアトリエの中で、呆然としていたがしばらくして階下のインビスにおもむいた。普段と同じことをしたかった。しかしケバブ屋ももちろん焼けていて何も食べられなかった。それで、彼はアトリエの向かいにある小さなレストランに向かった。店員に一人分の席は空いているか聞いたが、店は込み合っていてちょっとも座れそうになかった。

 

そこで初めて彼は振り返って、焼けてしまったアトリエを見た。少し離れた場所からは黒く荒んだアトリエがよく見えた。

彼は燃えっカスを見つめながら、『私はあの場所から、このレストランが開店してから今までをずっと見ていたんですよ。最初の方はお客さんも少なかったのに、今ではこんなに満杯なんですね。』と言い、初めて泣いた。

 

私はその話を市役所で聞きながら泣きそうになるのを一生懸命堪えていた。

 

、という夢。

 

 

起きたら友達が『夢は見た?小さな象が出てくる夢はみた?』と聞くのでこの話をした。話終わっても彼はしばらく黙っていて『夕飯何にしよっか』とだけつぶやいた。

 

 

ビーガンアイスってこんな夢を見せるんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちにいる誰か

2年くらい前から住んでるこの家には、私と同居人の他に誰かいるんじゃないかってことになっている。

それがいる場所は決まってて、一応玄関あたりということにしている。私たちの部屋やキッチン、トイレには入ってこないルールだ。

その存在を気にし始めたのは、同居人から。私が何日か家を開けて帰ってきたときに、『あ〜1人でめっちゃ怖かったんだよね。夜とか!やっぱなんかいるだろって思った瞬間があって。でももう慣れてきたよ。』と彼女は言った、私の立ってる玄関で。

 

その言葉をきっかけに私もそれが気になり始めた。ときどき夜中に急に鳴り始める火災報知器。料理も何もしていないのに音を出すので、掃除機で埃を取ったり換気をしたりした。しかしたまに鳴り、私たちが部屋のドアを開けて顔を覗かせると止むのを繰り返す。今は飽きたのか、静かにしている火災報知器。

 

バスルームのドアは上部にすりガラスの小窓があって、そこから玄関が覗ける。

ある夜1人でシャワーを浴びていた私は、何気なくそちらを見やった。何かがすらっと小窓越しに動いたのが見えた瞬間、私はそれを素直に受け入れるしかないと思った。もう怖がるのはやめよう、だっているんだもん、仕方ないじゃん。

幽霊、お化け、怖いのでできたら会いたくないです。でももうOKってなんか急に諦めがついた。

 

それからしばらくして、ソーセージ焼いてるときにちょっと目を離したら一本なくなってたこともあったな。それは良くないだろと思った。

 

この家は長いこと建っているので、前からの住人がまだ住んでてもおかしくないよなとは思っている。むしろこっちは住まわせてもらってるくらいの感覚で、平和に共存していきたい。

 

でも一週間前、金縛りにあったときに玄関にいるそれが、そのままキッチンで水道水をごきゅごきゅっと飲んだあと、うっすら開けちゃってた私の部屋のドアの隙間から入ってきて、私の腹の上に乗っかてきたことがあったな。

(いや、私の部屋には入らない約束だったじゃん)と思いました。



 

クリスタルショップでの宇宙人

夏に日本に一時帰国したときに、三年半ぶりに故郷に戻った。

商店街をぶらぶらしていたら、クリスタルショップを見つけたので入ってみた。当時好きだった人に何かお土産が欲しくて、ここに何かあるかもしれないと思ったのだ。

 

店の奥には店主さんがいて、ニコニコしていた。最初は立ち話、だんだん盛り上がってきたので最後は椅子に座っておしゃべりしていた。彼が若い頃にした旅の話、私のベルリンでの生活の話、石の話。そしたら、途中からクリームチーズ入りの大福と、柏餅を手土産に女性が入ってきた。店主とは元々約束があったらしい。その人は自分のことを『宇宙人でーす。』と紹介した。私は自分の名前をいった。

 

3人で大福を食べながら話をした。店主がトイレに立ったとき、私は宇宙人さんに『私の声ってすごく小さいんですよね、』と話していた。彼女は『喉のチャクラが開いていないのかもね。ちょっと背中向けてみて。』と言って私の背後から首の裏と腰の辺りに手をかざしてじっと沈黙した。私はトイレから帰ってきた店主がこの光景を見たらちょっと気を遣われるんじゃないかとハラハラしていた。私はいいんだけど、っていうこの感覚。

いっときして彼女は大きく息を吐き、『声出してみて』といった。私は思わず『なんて言えばいいでしょうか、』と尋ねてしまった。か細い声だった。

『こんにちは!とか?』『こんにちは!』『あ、ちょっと大きくなってるね』

 

このとき、私は中学生のときのパン屋職業体験のときを思い出していた。初めてのレジ打ちをしていたある日、女性客から『あなた研修してるの?』と聞かれた。『はい、そうです。』と答えると、『頑張ってね、でももうちょっと声出してみてね』と彼女はにこやかにアドバイスしてくれた。私は少し、"やべっ!!"って思ってしまって、急にテストされてるような気持ちになった。焦ってまた小さめの『はい。』を繰り出してしまったときに見えた彼女の表情といったら。目から光がうせ、明らかに失望しました、といった感じでさっさと去っていってしまった。あーあ、と思って喉がさらにキュッとなった。

 

もし、あのとき隣で一緒にレジ打ちしていたのがこの宇宙人さんだったら。ちょっとあったかい掌の熱をじんわりうなじに感じられていたら。もう少しデカめの声で『はい』と返事できていただろうか。

 

話がそれてしまった。

結局3時間くらいはその場で話込み、最後は彼女に駅まで送ってもらった。この人のこと、一生忘れなさそうだしでも意外と一年後には忘れているのかなとか思った。クリスタルショップでは結局自分のためにオパールの指輪を買った。