クリスタルショップでの宇宙人

夏に日本に一時帰国したときに、三年半ぶりに故郷に戻った。

商店街をぶらぶらしていたら、クリスタルショップを見つけたので入ってみた。当時好きだった人に何かお土産が欲しくて、ここに何かあるかもしれないと思ったのだ。

 

店の奥には店主さんがいて、ニコニコしていた。最初は立ち話、だんだん盛り上がってきたので最後は椅子に座っておしゃべりしていた。彼が若い頃にした旅の話、私のベルリンでの生活の話、石の話。そしたら、途中からクリームチーズ入りの大福と、柏餅を手土産に女性が入ってきた。店主とは元々約束があったらしい。その人は自分のことを『宇宙人でーす。』と紹介した。私は自分の名前をいった。

 

3人で大福を食べながら話をした。店主がトイレに立ったとき、私は宇宙人さんに『私の声ってすごく小さいんですよね、』と話していた。彼女は『喉のチャクラが開いていないのかもね。ちょっと背中向けてみて。』と言って私の背後から首の裏と腰の辺りに手をかざしてじっと沈黙した。私はトイレから帰ってきた店主がこの光景を見たらちょっと気を遣われるんじゃないかとハラハラしていた。私はいいんだけど、っていうこの感覚。

いっときして彼女は大きく息を吐き、『声出してみて』といった。私は思わず『なんて言えばいいでしょうか、』と尋ねてしまった。か細い声だった。

『こんにちは!とか?』『こんにちは!』『あ、ちょっと大きくなってるね』

 

このとき、私は中学生のときのパン屋職業体験のときを思い出していた。初めてのレジ打ちをしていたある日、女性客から『あなた研修してるの?』と聞かれた。『はい、そうです。』と答えると、『頑張ってね、でももうちょっと声出してみてね』と彼女はにこやかにアドバイスしてくれた。私は少し、"やべっ!!"って思ってしまって、急にテストされてるような気持ちになった。焦ってまた小さめの『はい。』を繰り出してしまったときに見えた彼女の表情といったら。目から光がうせ、明らかに失望しました、といった感じでさっさと去っていってしまった。あーあ、と思って喉がさらにキュッとなった。

 

もし、あのとき隣で一緒にレジ打ちしていたのがこの宇宙人さんだったら。ちょっとあったかい掌の熱をじんわりうなじに感じられていたら。もう少しデカめの声で『はい』と返事できていただろうか。

 

話がそれてしまった。

結局3時間くらいはその場で話込み、最後は彼女に駅まで送ってもらった。この人のこと、一生忘れなさそうだしでも意外と一年後には忘れているのかなとか思った。クリスタルショップでは結局自分のためにオパールの指輪を買った。